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クレディ・スイスの「AT1債」って何?

経営危機に陥っていたクレディ・スイスは19日、スイス金融最大手UBSに約4300億円で買収される運びとなりました。これを受け、スイス国立銀行は両社に約14兆円の支援融資を行い、スイス政府はUBSに約1.3兆円の政府保証を提供します。

もしクレディ・スイスが破綻すれば、世界規模の金融危機に発展する恐れがありました。今回の買収合意は事実上の救済措置です。これによって、とりあえず世界金融危機のリスクは低くなったと思います。しかし、短期間で欧米銀行の破綻や経営危機が相次いでおり、現状ではまだ予断を許さない状況です。

ところで、この買収によってクレディ・スイス発行の「AT1債」なるものが無価値になるそうです。当該債券は2.27兆円にも及ぶ巨額なもので、これがゼロになってしまうということで市場に動揺が拡がっています。

通常の減損処理では、まず株主が損失が被ります。つまり資本構造の序列上、債券の方が株式よりも優先順位が上です。しかし今回の買収では、株主は一部損失を被るものの保護され、AT1債の保有者は一切保護されずに全損となりました。CoCo債保有者の一部は「CoCo債の方が株式より序列が上なのに、CoCo債は全損、株式は価値が保全される、これはおかしいじゃないか」と憤っています。

さて、AT1債とは一体何なのでしょうか。私はこれまで聞いたことがなく、今回の件で初めてその存在を知りました。AT1とは「Additional Tier 1」の略で、AT1債は「CoCo債」の一種です。CoCo債は偶発転換社債(Contingent convertible bonds)とも呼ばれる劣後債です。あらかじめ設定された条件をトリガーとして、普通株に転換されたり、元本が削減されたりします。AT1債は後者タイプのCoCo債で、資本比率が一定の基準を下回ると元本が削減されます。

つまり、社債劣後債、CoCo債、AT1債は以下のような包含関係になっています。

 

社債劣後債 > CoCo債 > AT1債

  • 社債: 企業が資金調達のために発行する債券
  • 劣後債: 債務の弁済順位がより劣る社債
  • CoCo債: ある条件によって性質が変わる劣後債
  • AT1債: 資本比率が一定以下になると元本が削減されるCoCo債

 

また上記の関係は、右に行くほどリスクが高く、従って利回りも高くなります。特にCoCo債のリスクは非常に高く、このうちAT1債は特にリスクが高いです。おそらくこれまで、AT1債は一般に「利回りが高い債券」というくらいの認知度で、そのリスクはあまり意識されてこなったのではないかと思います。しかし今回のクレディ・スイスの件で、AT1債のリスクが突如として顕在化しました。市場の動揺はしばらく収まらないかもしれません。

 

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