映画「帰ってきたヒトラー」を鑑賞しました。およそ10年前の公開当時、その過激なテーマや内容から社会現象を巻き起こした作品です。昨日までYouTubeで字幕版と日本語吹き替え版の両方が無料配信されていました。私は字幕版の方を観ました。アドルフ・ヒトラーの再現具合もポイントかなと思い、字幕版の方が良いだろうと判断しました。本人の映像は「映像の世紀」などでよく見かけます。この映画、いつか観てみたいと思っていたので、ちょうど良かったです。配信終了ギリギリの昨夜に滑り込みで観ました。

ジャンルはブラックコメディになるのかな。笑えるけど笑えない、面白いけど怖ろしい、そんな作品です。あらすじは割と荒唐無稽です。ヒトラーが現代のドイツにタイムスリップしてきて、モノマネ芸人として扱われるも、やがて「大衆」から絶大な支持を獲得していきます。序盤は単純にコミカルで面白いです。あのヒトラーが現代のドイツの様子にあたふたしたり、情報を集める中でメルケル首相を「陰気なオーラのデブ女」と評したり、働かされて「昨日は第12軍を動かした、今日はスタンドだ」とぼやいたりします。
しかし物語が進むにつれて怖ろしい展開を見せてきます。ヒトラーは街頭インタビューを通して人々の不満に耳を傾け、ドイツ人の不満を代弁し、徐々に注目を集めていきます。やがてテレビ出演を果たし、持ち前の演説の才で現代のドイツの問題点などについて熱弁します。それらの様子がネットで拡散されて、多くの現代ドイツ人から熱狂的な支持を獲得します。終盤でユダヤ人のおばあさんが言い放つセリフ、「みんな最初は笑ってた」に戦慄を覚えました。
ヒトラーが市民と対話を重ねる街頭インタビューのシーンは見どころです。ここはドキュメンタリーになっていて、一部は演出ではなくノンフィクションです。つまり今のドイツ人の実際の反応が見られます。一般市民がヒトラーそっくりの俳優を受け入れ、一緒に写真を撮ったり、支持を表明したり、外国人への不満や敵意を生々しく述べたりします。もちろん映画に合うインタビューが選別されているのでしょうが、それでもなかなか怖ろしいです。
またドイツの各政党にアポなしで突撃取材し、一部の党員と割と真面目に議論を交わしたりします。こちらも見どころです。たとえば極右政党NPDの副党首は、かなり人種差別的な本音を漏らします。そしてヒトラーの「私の命令には従うか?」という問いかけに対して、「撮るなよ」と断った上で「本物の総統ならね」と答えます。怖い。
その他、印象的なシーンが色々とあります。ヒトラーの演説、演説前の沈黙、いずれも本人とよく似ています。また「ヒトラー ~最期の12日間~」の名シーンを完全にオマージュしたテレビ局のシーンはとても面白かったです。序盤でヒトラーは「ガソリン臭いな」と言われますが、それは史実で自殺後にガソリンをかけられて燃やされたからでしょう。ヒトラーが「インテルネッツ」(インターネット)で好きな言葉「世界制覇」を検索する場面は笑いました。テレビ局長の「ユダヤ人ネタは笑えない」に対して、ヒトラーが「ああ、笑い事じゃない」と応じる、表面的には成り立っているように見えても実質的に全く噛み合っていない会話も面白かったです。おそらくドイツ人なら、もっとたくさん印象に残るシーンがあるのでしょう。
そうだ、例の終盤の「みんな最初は笑ってた」の場面、実は映画の中盤くらいから「最後の方にこういう場面があるかも」と予想していました。このセリフを言うおばあさんは主要キャラの祖母です。彼女の初登場時点では、同人物が認知症を患っているという情報しかなく、まさかユダヤ人だとは分かりません。しかし物語の中盤、彼女の家でユダヤ教の燭台「メノーラー」が落ちてくる場面があります。一瞬のシーンでしたが、これを見てピンと来ました。私は子どもの頃、微妙に中2病でユダヤ教に関心があり、たまたまメノーラーを知っていたのです。まあとにかく、このセリフの場面が一番の衝撃でした。

ヒトラーは史実でも大半のドイツ国民から熱狂的に支持されました。独裁者が突然に生まれたのではなく、第一次大戦後の混乱した社会の中で、国民がそういうリーダーを望み、彼を熱狂的に支持したのです。映画はその過程を絶妙に再現しており、かつての恐怖は決して過去だけの話ではなく、現在にも未来にも容易に起こり得るのだと視聴者に突きつけます。
おそらく古今東西の国で、国民が一定以上の不満や危機感を抱く状況になれば、ヒトラーのようにカリスマ性があり、いかにも強力なリーダーシップを発揮してくれそうな人物が「国民の方から」選ばれるのでしょう。その意味では、別にヒトラーである必要は全くありません。その時代、その国で、国民が求める属性を備えている、あるいはそのように演出している人物がリーダーとして選択されます。
折しも日本では先の衆院選で自民党が歴史的圧勝、高市旋風が巻き起こっています。映画の内容と日本の現状を短絡的に結びつけるつもりは毛頭ありませんが、一般に熱狂の渦中に居るうちは物事を冷静に見られないものです。「みんな最初は笑ってた」になりませんように。
帰ってきたヒトラー、面白くも様々なことを考えさせられる、とても怖ろしい映画でした。
【姉妹サイト】
お金と労働と地球株
~無能が30代で資産1億円を達成した方法~
【他の投資家ブログ】
【はてなランキング】