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掛け算の順序

ネットで「掛け算の順序」について話題になっていました。ある母親の息子が学校で算数のテストを受け、ある問題で「掛け算の順序が異なっている」という理由で減点になりました。それに対して、母親は「納得いかない」と憤っています。

具体的な問題と回答は以下のとおりです。

  • 問題「子どもが4人います。シールを1人に8まいずつくばるには、ぜんぶで何まいいりますか。」
  • 息子の回答:4×8=32(←減点)
  • 正解:8×4=32

この「掛け算の順序」問題、よほど人を惹きつける魔力があるのか、同じような内容で過去に何度も話題になっています。大方の反応は「どっちの式でも同じなのに減点はおかしい」というものです。おそらく今回の母親も同じ見解だと思います。その他に「先生がダメ」「もはや算数ではなく国語の問題」といった意見もあります。

私としては「掛け算を習いたての子どもには、その順序を意識させる必要がある」と思います。これを「おかしい」と思えるのは、その人が掛け算の交換法則を既に知っているからでしょう。それ以前に、多分その人は問題文から「計算に必要な情報は4と8だけ」だと即座に分かるし、その記号(数字)の操作(計算)にも慣れています。もっと言えば、そもそも掛け算九九を暗記しているので、計算すら要らず、一瞬で「4×8=32」が頭に思い浮かぶかもしれません。

しかし、彼らは最初からそれをできたのでしょうか。語学とは異なり、数学のネイティブなど居ません。彼らがいま一瞬で答えを導き出せるのは、子どもの頃に受けた教育の賜物です。「おかしい」と言っている人は、それを忘れてしまっているんじゃないかと思います。その意味で、もし今回テストを受けた子どもが自宅や学習塾等で既に交換法則や掛け算九九などを「先取り学習」していて、その上で自信をもって「4×8=32」と書いたのであれば、それで減点されてしまうのは確かにかわいそうです。しかし、公教育は先取り学習ができる恵まれた子どもだけを対象とする制度ではありません。

さて、該当の子どもが普通の子、つまり、まだ掛け算の交換法則や九九を知らず、数字を操作する抽象的な思考にも慣れていないとします。その場合、それぞれの式は頭の中で次のように展開されているはずです。

  • 8×4」:8+8+8+8
  • 「4×8」:4+4+4+4+4+4+4+4

繰り返しになりますが、子どもは交換法則等をまだ知らないし、日本語の問題文から掛け算の式を組み立てることにも慣れていない前提です。このとき、「8まいずつくばる」という冒頭の問題文から自然に導かれる展開式は前者だと思います。これがもし後者だとすれば、その子は何か思い違いをしてしまっている可能性があり、答えは合っていたとしても先生としては心配になります。

ある意味で「もはや算数ではなく国語の問題」という批判は正しく、この段階ではそれもまた必要な練習だと思います。実際、もし問題文が「シールを4人の子どもに『1枚ずつ』配った」というものだったら、むしろ後者の展開式が自然に導かれていたかもしれません。

そういうわけで、この段階の子どもには「掛け算の順序」をしっかりと教える必要があると思います。その段階をとっくに過ぎた大人が、自分だって過去にそういう練習をして来たからこそ計算できるようになったにもかかわらず、今の視点だけであれこれ批判するのは少々おかしいと思います。

これと同じ構造の問題が、英語学習の分野でも生じているように感じています。それについては、そのうち気が向いたら記事にしたいと思います。

 

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