地球PF運用ブログ

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信用創造:又貸し説と万年筆マネー

銀行貸出で預金が発生する仕組みを「信用創造」と言います。この信用創造について、2つの異なる見解があります。

1つ目は「外生的貨幣供給論」です。この説では、銀行はお客様から預かった現金(本源的預金)を基に、その一定割合の新たな預金(派生的預金)を別のお客様に貸し出します。後者のお客様は一定割合の預金を銀行に残しておくはずです。すると銀行は、その残った預金の一定割合を、更に別のお客様に貸し出します。こうしたプロセスが繰り返されることで、結果的に全体の預金額が増えていく、という考え方です。銀行はお客様のお金をいわば「又貸し」しているので、この説は俗に「又貸し説」と言われています。

2つ目は「内生的貨幣供給論」です。その名のとおり、外生的貨幣供給論の反対です。この説では、銀行は貸出の際に無からお金(預金)を作り出します。銀行は「外」からお金を調達するのではなく、銀行の「内」部で預金を「生」成している、という考え方です。つまり、銀行は誰かから預かった預金を貸し出しているのではなく、むしろ貸出によって新たな預金を創造している、というわけです。預金通帳に万年筆でサラサラっと数字を書くだけでマネーが生まれる様子から、この説は俗に「万年筆マネー」と言われています。なお、現代の銀行業務では万年筆ではなくキーボードで数字をタイプしていることから「キーストロークマネー」と言われたりもします。

又貸し説と万年筆マネー、どちらが主流の見解かというと、又貸し説の方です。主な経済の教科書は、信用創造の説明として又貸し説を採用しています。また、ネット等で見られる一般的な信用創造の説明は「銀行が貸し出しを繰り返すことによって全体のお金が増える仕組み」といったもので、要するに又貸し説です。

ところが、又貸し説は実際には誤り(あるいは特殊なモデル)で、信用創造の実態は万年筆マネーです。

又貸し説では最初に「外」から預けられる現金を「本源的預金」として、そこから生み出されるとされる「派生的預金」と区別しています。しかし、1つの銀行ではなく銀行全体として見れば、そもそも本源的預金と派生的預金の区別などつきません。本源的預金も元を辿れば、どこかの銀行で誰かが下ろした現金です。更にその元を辿れば、どこかの銀行から誰かが借りた預金に行き着きます。現金は中央銀行が発行するお金、預金は民間銀行が発行するお金です。一般に中央銀行の口座を持っている人など居ないので、「お金の利用者」の世界に新たな現金が「直接」供給されることはありません。最初にこの世界にもたらされる新規のお金は、誰かが民間銀行から借り入れた預金なのです。

従って、預金は外から来るものではなく、銀行貸出によって新たに創造されるもの、つまり信用創造の実態は万年筆マネーだということになります。

万年筆マネーは銀行実務者にとっては以前から常識のようです。そりゃそうでしょう。実際にそうやってお金(預金)を発行しているのですから。例えば元日銀マンの横山昭雄は、著書「真説 経済・金融の仕組み」において、又貸し説の誤りを指摘した上で、実際の信用創造は万年筆マネーであることを説明しています。

また、2014年にイングランド銀行が「いい加減に又貸し説を妄信するの止めろ、正しいのは万年筆マネーやぞ」という趣旨の解説を公表して物議を醸しました(参照:現代経済における貨幣創造(Money creation in the modern economy))。

それにもかかわらず、未だに誤った又貸し説が幅を利かせています。一体なぜでしょうか。推測になりますが、多分以下のような理由じゃないかと思います。

第一に、預金が銀行にとって「負債」だということが理解されにくいです。私たちにとって預金は「預けたお金」という意味の資産です。一方、銀行にとっては「預かったお金」という意味の負債です。実際に銀行のバランスシートには、預金が負債として計上されています。お金とは特殊な負債なのです。資産なら貸せても、負債を貸すことはできません。たとえ経済の専門家でも簡単な複式簿記を知らなければ、万年筆マネーなど信じられず、又貸し説に固執してしまいそうです。

第二に、お金には2つのタイプがあることが周知されていません。お金は「お金の発行者」間のみで用いられる「マネタリーベース」と、私たちが普段用いている「マネーストック」に分かれます。先ほど銀行のBSでは預金は負債、と述べましたが、実は資産の欄にも預金が計上されています。しかし、この預金は日銀当座預金というマネタリーベースであって、貸出に使えるお金ではありません。又貸し説派と万年筆マネー派の論争を見ていると、又貸し説派はマネタリーベースとマネーストックの区別ができていません。

第三に、信用創造準備預金制度の区別がなされていません。信用創造は上記のとおり、単純に銀行貸出で預金が発生する、というだけの仕組みです。準備預金制度は、民間銀行が貸し出した預金に対する一定割合の現金を中央銀行に預ける仕組みです。日本をはじめとした先進国の多くは準備預金制度を採用しています。しかし、同制度は信用創造に必須の仕組みではありません。又貸し説派は、どうも信用創造準備預金制度を混同してしまっている感があります(参照:お金と労働と地球株 - 1-2.【参考】預金の発行プロセス )。

信用創造の概念は地球PFにとって大変重要なので、姉妹サイトでも最初のページで説明しています。何しろ地球PFの土台は、地球上のお金が長期的に増え続けることだからです。投資においては通常、どの国のどの産業が成長するか、あるいはどの企業が成長するか、といったことが重要でしょう。しかし、そういったことは地球PFにとってあまり重要ではありません。主眼はあくまで地球全体の成長、もっと言うと、地球全体で増え続けるマネーです。そこで、新たなお金はいつ、どこで、どのように生まれるのか、といった説明を最初に持って来ているわけです。内容はもちろん万年筆マネーです(参照:お金と労働と地球株 - 1-1. お金が生まれるとき )。

 

出典:お金と労働と地球株 - 1-1. お金が生まれるとき

 

2022年、大学入学共通テストの「政治・経済」で信用創造に関する問題が出題されました。私はそれをX(旧Twitter)で知って問題を拝見しましたが、ちゃんと万年筆マネーに基づいた内容でした。これまで主流の解説が軒並み又貸し説だったことを考えると、非常に画期的と言えるのではないでしょうか。私が姉妹サイトを作った頃は、万年筆マネーなど異端中の異端扱いで、およそ見向きもされない風潮でした。依然として誤った又貸し説が主流ではありますが、これから徐々に正しい見解が広がっていくものと期待します。

 

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