ツイッターで度々「#税は財源ではない」というハッシュタグがトレンドに上がります。大勢の人がこのハッシュタグを用いてツイートし、トレンドに乗せるという一種の運動になっているようです。
彼らの主張を一言でまとめると「政府は増税せずに国債を発行せよ」です。要するに、財源は税ではなく国債だ、と言っています。明らかにMMT（現代貨幣理論）の影響を色濃く受けています。
ただし、この主張にも温度差があり、以下の2タイプに分かれているようです。
＜「税は財源ではない」の温度差＞
政界では、自民党でMMT派の急先鋒、西田昌司さんが前者の立場です。こちらは特にMMTを引き合いに出さずとも、常識的に理解できる見解です。政府が必要なお金を得るには、税金で集めるだけでなく、国債を発行して調達する、という手段もあります。だから税金だけに固執せず、もっと国債を活用せよ、というわけです。
一方、元自民党の安藤裕さんは後者の立場のようで、実際にツイッターで同タグを用いて積極的にツイートしています。こちらの見解は割とラディカルで、国債発行は通貨発行と同一であり、そもそも税金は財源にはならない、というのものです。
「税は財源ではない」を文字通りに解釈すれば、後者の主張になるのでしょう。実際、同タグを用いてツイートする人の大半は後者の見解を支持しているようです。過激なところでは、財務省が国民を洗脳していて真実が隠蔽されている、といった陰謀論チックなツイートも良く見られます。一方で「そんなわけないだろ」と反論するリプライも多数見られ、しょっちゅう言い争いになっています。
では実際のところ、税は財源なのでしょうか、それとも財源ではないのでしょうか。これは前提条件によって結論が変わります。ポイントは、政府を「お金の発行者」と見なすかどうかです。
MMTでは、お金は「政府＋中央銀行」から成る「統合政府」が発行している、と解釈します。つまり、政府は「お金の発行者」です。そうであれば形式的に、税は財源になり得ません。というのも、自分でお金を発行できるので、民間から税金を集める必要が無いからです。実際ツイッター上でも「政府はお金を発行できるのだから」「通貨発行権がある政府は」といったツイートをよく見ます。
それでは、政府は「お金の発行者」なのでしょうか。残念ながら違います。たとえ政府であっても、私たち同様に「お金の利用者」です。確かに日本は独自の通貨を発行できる「通貨発行権」を有する国です。しかし現在の通貨制度では、この通貨発行権を独占的に行使できる主体は銀行だけです。本来の意味でお金をゼロから「創造」できるのは、政府ではなく銀行です。
政府も「お金の利用者」である以上、私たちと同じくお金を調達するには、「稼ぐ」（税金を取る）か、「借りる」（国債を発行する）必要があります。よって、税もまた財源という結論になります（参照：1-4. 利用者全体のお金）。
つまり、政府を「お金の発行者」と見なすか「お金の利用者」と見なすかで、税が財源かどうかの結論が変わります。見方の問題ではありますが、少なくとも現行制度では、政府はお金の発行者ではない、つまり統合政府では無いのだから、税は国債と共に重要な財源の1つです。
いくら政府でも、国債を無制限に発行するわけにはいきません。もしそんなことが可能なら「無税国家」を実現できます。「税は財源ではない」派の人たちもその点は心得ており、国債発行の上限はインフレ率に依存する、としています。これもMMTの主張そのままですが、率直に言って少々ざっくりし過ぎた上限設定だと思います。インフレ率を簡単に制御できるなら、米国は今あんなに苦労していないでしょう。
だからと言って「増税ありき」で政策を進められると、私たち国民は大変に困ります。国内の経済主体は政府、企業、家計の3者です。政府が増税するとは、企業＋家計のお金を減らすことを意味します。そうなれば景気は当然悪化します。
岸田首相は先日、防衛費として1兆円の増税検討を表明しました。今の日本の状況で増税となれば景気悪化も止む無しでしょう。こういう分野こそ、増税ではなく国債で対応してほしいところです。
政府には増税か国債発行か、国内経済の状況に鑑みて適切に判断してほしいと思います。そして今の経済状況では、増税よりも国債が適切と思います。そういうわけで、私は「#税は財源ではない」というハッシュタグに違和感を覚えつつも、同タグを用いて国債発行を主張する人たちを今は応援しています。
【姉妹サイト】
